「権利の濫用」80周年

2015-08-26

 3月に北陸新幹線が開業して初めての夏となった。金沢は相変わらずの賑わいであろうが,夏から秋にかけては「立山黒部アルペンルート」も素晴らしい。大自然の雄大さもさることながら,急峻な黒部峡谷での電源開発に命を懸けた先人の想像を絶する努力に圧倒される。
 その北陸新幹線に「黒部宇奈月温泉駅」が出来て便利になった宇奈月温泉の源泉は,実は黒部峡谷の黒薙温泉である。何と「引湯管」を7キロも通りはるばる麓の宇奈月まで運ばれて来る。この「引湯管」こそが「宇奈月温泉事件」(大審院昭和10年10月5日判決)の主役であった。
 源泉から宇奈月までの「引湯管」の敷設地の一部(黒部峡谷の山肌である)が温泉経営者により未買収であることに目を付けた者が,その土地を購入して温泉側に不当な高値で売り付けようとしたが,温泉側がこれを拒否すると,敷設地の所有権に基づいて「引湯管」の撤去を求めたのが「宇奈月温泉事件」である。民法(明治29年公布)は「権利の濫用は,これを許さない。」(1条3項)と定めており,大審院(現在の最高裁判所)が同項の適用を初めて認めた重要な判例として知られる。
 当時の「引湯管」は赤松の丸太をくり貫いて作られたもので,実物が宇奈月杉乃井ホテル(旧宇奈月ニューオータニホテル)のロビーに展示されており,感動ものの「司法遺産」である。なお,民法自体も半ば「司法遺産」になりつつあるため,時代の変化に合わせた大改正案が現在国会で審議中である。

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